高次脳機能障害の後遺障害
交通事故から(ケガの程度にもよりますが)半年ほど経過しますと、「症状固定」と呼ばれる時期がやってきます。
原則として、治療費や慰謝料といった損害賠償は、この「症状固定」の時期までのものとなります。
しかし、「症状位固定」の時期にも、大きな障害が残っている場合は、損害保険料算出機構という組織に対して、「後遺障害の認定」を申請します。
後遺障害が認められた場合は、後遺障害に対して①後遺障害慰謝料、②後遺障害逸失利益などが認められることになります。
後遺障害が認められるかどうかによって、損害賠償額は大きく異なることになります。
しかし、後遺障害の申請(とりわけ高次脳機能障害について)は、非常に難しいものです。
後遺障害の申請は、交通事故案件について豊富な経験を持つ当事務所にお任せください。
高次脳機能障害で認められる後遺障害
被害者に高次脳機能障害が生じた場合は、以下のような後遺障害が認められることがあります。
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1級1号
判断基準
神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
補足
身体機能は残存しているが高度の認知症があるために、生活維持に必要な身の回り動作に全面的介護を要するもの
慰謝料(裁判基準)
2800万円
労働能力喪失率
100%
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2級1号
判断基準
神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
補足
著しい判断力の低下や情動の不安定などがあって、一人で外出することができず、日常の生活範囲は自宅内に限定されている。身体動作的には排泄、食事などの活動を行うことができても、生命維持に必要な身辺動作に、家族からの声かけや看視を欠かすことができないもの
慰謝料(裁判基準)
2370万円
労働能力喪失率
100%
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3級3号
判断基準
神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
補足
自宅周辺を一人で外出できるなど、日常の生活範囲は自宅に限定されていない。また声かけや、介助なしでも日常の動作を行える。しかし記憶や注意力、新しいことを学習する能力、障害の自己認識、円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって、一般就労が全くできないか、困難なもの
慰謝料(裁判基準)
1990万円
労働能力喪失率
100%
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5級2号
判断基準
神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
補足
単純繰り返し作業などに限定すれば、一般就労も可能。ただし新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題がある。このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には職場の理解と援助を欠かすことができないもの
慰謝料(裁判基準)
1400万円
労働能力喪失率
79%
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7級4号
判断基準
神経系統の機能または精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの
補足
一般就労を維持できるが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができないもの
慰謝料(裁判基準)
1000万円
労働能力喪失率
56%
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9級10号
判断基準
神経系統の機能または精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
補足
一般就労を維持できるが、問題解決能力などに障害が残り、作業効率や作業持続力などに問題があるもの
慰謝料(裁判基準)
690万円
労働能力喪失率
35%
後遺障害の慰謝料
高次脳機能障害に対する後遺障害が認められたときは以下のような慰謝料が生じます。
相手保険会社が最初に提示してくる額は、自賠責基準に近いことが多いです。
しかし、自賠責の額は裁判基準(弁護士基準)に比べますと、かなり低い額になります。
相手保険会社からの提案には、すぐに合意をせずに弁護士にご相談ください。
等級 | 自賠責基準 | 裁判所基準 |
---|---|---|
1級1号 | 1600万円 | 2800万円 |
2級1号 | 1163万円 | 2370万円 |
3級3号 | 829万円 | 1990万円 |
5級2号 | 599万円 | 1400万円 |
7級4号 | 409万円 | 1000万円 |
9級10号 | 245万円 | 690万円 |
等級 | 自賠責基準 | 裁判所基準 |
---|---|---|
1級1号 | 1600万円 | 2800万円 |
2級1号 | 1163万円 | 2370万円 |
3級3号 | 829万円 | 1990万円 |
5級2号 | 599万円 | 1400万円 |
7級4号 | 409万円 | 1000万円 |
9級10号 | 245万円 | 690万円 |
高次脳機能障害とされる要件
高次脳機能障害の後遺障害認定は、単に高次脳機能障害が疑われる症状があれば認められるというものではありません。
自賠責では、以下の症例がある事案を高次脳機能障害事案として、高次脳機能障害審査会で判断することとされています。
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高次脳機能障害とされうる症例
1.初診時に頭部外傷の診断があり、頭部外傷後の一定程度の意識障害が存在した場合
一定程度の意識障害
①半昏睡~昏睡で開眼・応答しない状態が少なくとも6時間以上
②健忘症あるいは軽度意識障害が少なくとも1週間以上どちらかが、続いた症例
2.経過の診断書または高障害診断書において、高次脳機能障害、脳挫傷(後遺症)、びまん性軸索損傷、びまん性脳損傷等の診断がなされている症例
3.経過の診断書または後遺障害診断書において、高次脳機能障害を示唆する具体的な症状(記憶・記銘障害、失見当識、知能低下、判断力低下、感情易変、暴言・暴力等)、あるいは失調性歩行、痙性片麻痺など高次脳機能障害に伴いやすい神経徴候が認められる症例、さらには知能検査など各種神経心理学的検査が施行されている症例
4.頭部画像上、初診時の脳外傷が明らかで、少なくとも3か月以内に脳室拡大。脳萎縮が確認される症例
5.その他、脳外傷による高次脳機能障害が疑われる症例
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審査会で重視される判断項目
1.意識障害の有無とその程度
脳外傷による高次脳機能障害は、意識消失を伴うような場合に起こりやすいことが特徴の障害です。前述の要件のうち、1・2に挙げられるような意識障害があったかどうかがポイントになります。
2.画像所見
びまん性軸索損傷では、受傷直後には脳内に点状出血を生じている場合が多いです。
さらに受傷数日後には脳萎縮が目立ち、3か月ほど経つとその状態が固定し以後はあまり変化しません。
以上を踏まえ、画像資料で経時的に脳室拡大、脳萎縮等の有無を確認します。3.事故との因果関係の判断
以下の3点を満たした場合には、高次脳機能障害と事故の間に因果関係が認められます。
①頭部外傷を契機として症状が発生し
②次第に軽減しながらその症状が残ったケースで
③びまん性軸索損傷とその特徴的な様子が認められる
頭部に衝撃を受けていても、脳損傷とまでは言えず一旦は通常の生活に復帰した後、数か月後に症状を発したような場合は、内因性の疾病が発症した可能性が高いと判断されます。
高次脳機能障害について後遺障害の申請をするときは、以上のような要件を意識して申請をする必要がありますが、ご自身で行うことは極めて難しいでしょう。
申請を希望される方は、一度、当事務所にご相談ください。